小指は握力の50%を握っている? - 握力との深い関わりを探る

2023年10月29日日曜日

雑学

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小指が握力の50%を担うという主張の詳細

小指の握力への貢献度について詳細に調査しました。「小指が握力の50%を担っている」という主張を検証するものであり、科学的データと一般的な情報源を比較することでその真偽を明らかにします。

背景と方法

握力は、手全体の筋力、特に指と親指の協調動作によって測定されます。標準的な握力テストでは、ジャマーダイナモメーターを使用して全指(親指を含む)で握る力を測定します。今回の調査では、各指の貢献度を評価する研究を参照し、特に小指の役割に焦点を当てました。

科学的データからの発見

複数の研究から、小指の握力への直接的な貢献度は全体の10-15%程度であることが示唆されています。
  • Rogers Athleticのブログでは、指ごとの力の貢献度が次のように報告されています:人差し指25%、中指35%、薬指25%、小指14% ( Grip Strength - Rogers Athletic )。これは親指を含めた全体の握力に対する割合と考えられ、小指の貢献は14%とされています。
  • ScienceDirectの研究では、200人の健康な男性を対象に、各指を除外した際の握力を測定しました。全指(親指を含む)の平均握力は45.1kgで、小指を除外した場合は39.9kgでした。これにより、小指の貢献度は45.1 - 39.9 = 5.2kgで、全体の約11.5%と計算されます ( Comparison of grip strength among 6 grip methods )。
  • PMCの記事「Contribution of the ulnar digits to grip strength」では、親指を除外した4指(人差し指、中指、薬指、小指)の握力を測定しました。小指を除外すると握力が33%減少することが示され、これは4指の握力における小指の貢献が約35%であることを意味します ( Contribution of the ulnar digits to grip strength )。しかし、これは親指を含まない場合のデータであり、標準的な握力測定とは異なります。
以下の表は、主要な研究からのデータをまとめます:
研究ソース
小指の貢献度(%)
備考
Rogers Athletic
14%
親指を含む標準的な握力
ScienceDirect
11.5%
親指を含む標準的な握力、計算値
PMC(親指除外)
33%
親指を除いた4指の握力における貢献度

50%という主張の起源と分析

一方で、ニューヨーク・タイムズの2008年の記事では、手療法士のローリー・ロジャースが「小指を失うと手強度の50%を失う」と述べています (Get Along Without a Pinkie? It’s Tougher Than You Might Think - The New York Times)。この主張は、VinePairやQuoraの回答でも繰り返されています (Your Pinkie Provides Half Your Hand Strength | VinePair)。
しかし、この50%の主張は科学的データと一致しません。記事の文脈では、ロジャースは小指と薬指が「力の提供」に重要な役割を果たすと説明しており、おそらく小指と薬指の合計(尺骨神経の機能を含む)の影響を指している可能性があります。PMCの研究では、薬指と小指を両方除外すると握力が平均55%減少することが示されており、これは50%に近い値です (Contribution of the ulnar digits to grip strength)。しかし、これは小指単独の貢献ではなく、薬指との組み合わせの影響です。

意外な事実:文脈による違い

興味深いことに、小指の役割は測定の文脈によって大きく異なります。標準的な握力テストでは小指の貢献は10-15%ですが、親指を除外した4指の握力ではその貢献度が33-35%に上昇します。これは、小指が親指との協調動作では相対的に小さな役割を果たすが、指だけの力ではより重要な役割を果たすことを示唆しています。
また、QuoraやRedditの議論では、小指を失うと全体的な手機能(特に安定性や特定の動作)に大きな影響があるとされていますが、これは直接的な握力測定とは異なる観点です ( Is it true that 50 percent of your hand strength comes from your pinky finger? - Quora )。

結論と今後の展望

調査の結果、小指が握力の50%を担うという主張は科学的証拠では支持されません。標準的な握力測定では、小指の貢献度は約10-15%であり、50%という数字は誤解または異なる文脈(例えば小指と薬指の合計の影響)の可能性があります。政府や医療機関は、こうした一般的な誤解を解消するための啓発活動を進めるべきでしょう。

参考資料

QooQ